SSブログ

命の救援電車 [読書]

DAL_A330-300_823NW_0003.jpg

昨日は雪が積もる中、凍えて帰ってきて、今日は流石に家を出たくなくて在宅勤務。
案の定、我が家の前は凍り付き、シャベルでも剥がせません。
川向こうの家の前の道路には太陽の光が当たって、もう全く痕跡がないのですが、日陰のうちの側は溶ける気配がありません。

明日は少しは気温が上がりそうなので、溶けてくれると良いのですけどね。
それにしても、明日から折角の3連休なのに、Ο株の御陰で、自粛を余儀なくされそうです。
重症化しないと言うのならば、通常の風邪と同じ扱いにしてくれると良いのですけどね。
後どれくらいワクチンを打たないといけないのでしょうか。

そんな訳で、一昨日昨日の出勤日に帰りの電車の中で読んでいた本の紹介。

『命の救援電車 大阪大空襲の奇跡』(坂夏樹著/さくら舎刊)
大阪は太平洋戦争の末期に3回も大規模空襲を受けているのですが、これは1945年3月14日に行われた初の大規模空襲の話です。
東京大空襲、そして名古屋が大空襲を受けた後、マリアナ諸島からB29爆撃機の大編隊が大阪に襲来して、湊町付近に焼夷弾投下を開始し、以後、西側2箇所の爆撃中心点に向けて、各編隊が投弾を行っていきます。

こうして、御堂筋を中心に淀屋橋の西側を北限として、南は南海本線の沿線から天王寺を結んだ線、そこから大阪城近くまでを結んだ線、更に大阪市街地の西側一帯が完全に灰燼に帰した訳です。

特に御堂筋には幅70mと言う広さがあり、人々は挙ってこの街路を逃走経路として利用しました。
しかし、焼夷弾が多数投下されると御堂筋は炎の通り道となり、火炎が竜巻となって人々を襲いました。
その業火の中、人々を収容していたのが心斎橋の大丸百貨店の地下だったそうです。
地下には1,000人以上の人が避難していたといいます。

大丸百貨店も上階が延焼したのですが、従業員の懸命の消火活動と当時としては珍しいスプリンクラー設備の御陰でかなり保つことが出来ました。
こうした人々の間に誰とも無く囁かれたのが、「地下鉄が動いている」と言う話。

心斎橋駅では憲兵が地下鉄の入口にいて、避難する人達を受容れていたと言う話が残っています。
驚くべき事に、心斎橋駅は地上の業火は何処吹く風で、電灯が煌々と灯っていたと言います。
あまつさえ、心斎橋駅から梅田駅まで、電車に乗って避難したという人の証言もありました。

これらの描写は2014年の朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」で取り上げられ、人々の話題に上りました。
これは本当に現実だったのか、それとも人々の願望が生み出した幻だったのか。

それを検証したのが、この本です。
しかしながら、当時の公的記録にこうした話は一切残っていません。
また、銀座空襲の際に500kg爆弾が銀座駅を直撃して大きな損傷を被ったと言う現実もあり、地下鉄への避難は不許可となっていたはずですし、ましてや電車を走らせるために、第三軌条に通電させるなど危険極まりないとして当時の交通局関係者は否定していました。

ところが、色々と文献を調べていくと、鉄道省大阪鉄道局から空襲前日に大阪市電気局長に極秘電話があり、14日に大阪に空襲がある可能性が高いと警告を受け、その警告を受けて電気局長は大阪市長の指示を仰いで、大国町~花園町の運転を休止して、大阪市が備蓄していた物資を花園町駅に運べるだけ運び込んだといいます。

因みに、当時の大阪市営地下鉄は3両編成、しかし関一の時代に建設したのは10両編成対応となっていた為、7両分の余長があります。
この為、当時の大阪市営地下鉄の駅は備蓄物資の倉庫としても使われていたそうです。
特に本町は完全に封鎖されて物資備蓄倉庫となっていたとか。

これらの物資を輸送するために地下鉄を活用した可能性があり、その為に心斎橋変電所の送電を止めるなと指示されていたのでは無いかと推定しています。

また空襲が夜中から開始されたと言う事で、本来最終電車として走るべき電車が、梅田に戻らずに途中駅に滞泊して、それを回送する為に走らせた可能性がありました。
回送電車が途中駅に避難していた人々を乗せて、梅田(この空襲では梅田は焼失を免れた)に向けて走ったり、空襲時の人員輸送用列車として運行されたものが、実際には避難民輸送列車となったりしたのでは無いかと言うもの。
人々の証言を合わせていくと、こうした列車は3本が運転されたのでは無いかと考えられているそうです。

残念ながら、当時、誰がこの電車のハンドルを握っていたのかについては知る術がありません。
当時は動員された10代の若者がその重責を担っていたからです。
それも、男性が根刮ぎ動員で払底しているため、女性も動員され、ハンドルを握っていました。

彼等若者は、敗戦後、正規職員が復員してくると居場所がなくて解雇されてしまいました。
当時の記録は残っておらず、調査時点(1997年)でも何回か新聞に掲載されたものの、名乗り出る人がいなかったそうです。

この本では、歴史の闇に葬り去られそうになっていた出来事を丹念に調査して、周辺の証言や僅かに残った公的記録から再構築していった様が垣間見られた訳で、こうした活動には頭が下がる思いです。
今はそれから20年以上が経過し、既に多くの人は鬼籍に入ったのでは無いでしょうか。
また大阪市交通局も解体され、民営化されてしまってこれまでの歴史は完全に分断されてしまいました。

某政党の民営化推進は、実際には貧乏人を増やすだけの施策なのだと思うのですがねぇ。
分断の御陰でこうした歴史を掘り起こす活動も停滞していくのでは無いかと思います。
そして、行き着く先は…さて。

命の救援電車 ―大阪大空襲の奇跡

命の救援電車 ―大阪大空襲の奇跡

  • 作者: 坂 夏樹
  • 出版社/メーカー: さくら舎
  • 発売日: 2021/01/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



nice!(10) 
共通テーマ:日記・雑感