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ベトナム戦記 [読書]

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今日は半分ヘロヘロになりながらも会社へ。
まだ完全に復調とは言えず、お腹が緩いのは元の儘なのですが、流石に何時までも休んでいるわけにはいかないし。

で、今日は私立恵比寿中学の7thアルバム『私立恵比寿中学』の発売日なのですが、じっくり聞けていないので詳しくは明日以降に書くとして、今日は通勤の行き帰りに読んでいた本。

『ベトナム戦記』(開高健著/朝日文庫刊)。
ウクライナ戦争が正に今行われている所で、ベトナム戦争について書いている本を読むのも如何なものかと思ったのですが、正直、判らない事だらけというのはウクライナ戦争でも同じ事で、ベトナム戦争もそれに匹敵するくらい判らない事だらけです。
個人的には、ベトナム戦争は食わず嫌いなところもあり、余り食指が動かなかったのもありますが。

この本は、ベトナム戦争について日本で取り上げた初っ端に近い本です。
世界各地を旅していた開高健が、1964年から1965年に掛けて南ベトナムに100日間滞在し、そこで見聞したことを文章にしたもので、元々は週刊朝日に連載していた記事です。

この頃はまだ米国はベトナムに本格的に介入する所まで至らず、少数の軍事顧問団を派遣して、南ベトナムの政府軍に助言をしていた時分。
とは言え、その政府軍と言うのは実質は将軍達の私兵であり、上手く外交官を後ろ楯に出来れば、自分達の手の中に権力が転がり込んでくるため、年がら年中クー(クーデター)を行っている状態。

歴史にifは無いのですが、当時は仏教徒の勢力も強く、彼等にもう少し権力欲があれば、その後のベトナムは南北に分かれた分断国家の侭でしょうが、それなりに安定した国になっていた可能性がありました。

この本の前半はクーとデモと仏教徒の抵抗に明け暮れるサイゴンとその周辺部の出来事を描いており、後半になると、戦場により近い場所、例えば、戦略村や砦での取材が主になります。

考えてみると、今ほど機材やらネットやらが発達していなかった時代、その地で何が起きているのかを知る為には、危険を冒しても自分の足で現場に赴き、自分の目や耳で何が起きているのかを確認しないといけませんでした。
そりゃ、リアルタイムでは無く、後に冷静になって記事に起こす訳ですから、誤謬がある可能性も否定できません。

それを補うのが開高健に一緒について行った秋元啓一さんのカメラでした。
このカメラとて、今のデジカメと異なり、フィルムカメラですから現像してみるまでどんな画像が撮れているのか判らない訳です。

そして、今のウクライナ戦争と決定的に違うのは、現場に行っているかどうかですね。
今の報道記者は、会社の方針もあるのでしょうが、絶対に最前線に行く事は有りません。
その代わりに誰かが前線に赴いて、場合に依っては死を賭して撮影してきた素材を購入する訳です。

ただ、それを誰も確認する術がありませんから、フェイクを掴まされても判らない。
安全圏にいて素材を垂れ流すだけだったら、それは報道とは言えないのでは無いかなぁと思ったりする。

そこへ行くと、この当時の人達は肝が据わっていました。
まぁ、艦砲射撃や空襲、機銃掃射をこの目で、耳で味わった人達がまだ多かった時代ですし、開高健だって少国民として米軍の空襲や機銃掃射を逃げ惑った当人ですから、今更というのはあったのでしょうね。

それよりも好奇心の方が勝ったのでは無いかと思います。
最後のルポルタージュでは、砦からベトコンを掃討しに行く政府軍について行ったところで、ベトコンの待ち伏せに遭って命からがら逃げ帰ると言う目に遭っていますが、最前線を取材して歩いた事から、早くから政府軍の大義の無さを見抜いていましたし、1965年当時にして、既にベトコンの勝利を予言していました。

作家として脂が乗り始めた頃の作品ですので、サクサクと読み進めることが出来ます。
それを読んでウクライナ戦争を見ると、つくづく人間の本質は変わってないのだなぁと思ったりもするのですけどね。

ベトナム戦記 新装版 (朝日文庫)

ベトナム戦記 新装版 (朝日文庫)

  • 作者: 開高 健
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2021/11/05
  • メディア: Kindle版



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