ローカルバスの終点へ [読書]
昨日は何故か寝られなかったので、終日ポヤポヤしていました。
しょうがないので引き籠りです。
てな訳で、ここ最近、通勤の行き帰りに読んでいた本。
宮脇俊三さんの『ローカルバスの終点へ』(河出文庫刊)。
今までも何回も出版されていますが、これは改めての河出書房新社から出版されたものです。
今から30年以上前のバス旅の記録です。
恐らく、ここに収録されている殆どの路線は今は廃線になっていると思います。
普通、こうしたテーマは観光地の紹介とか、有名どころの紹介が多いのですが、それでは面白くない。
つむじ曲がりの我等が俊三さんは、雑誌『旅』の連載であるにも拘わらず、そんな観光地には見向きもせず、ひたすら人が行かなさそうなバス路線の終点へ行く旅を続けます。
勿論、こんな旅では、何かが起こることも無く、このバスから見える光景、そして乗ってきた人々の日常の風景が淡々と描かれていますが、それこそが宮脇俊三さんの紀行文学の神髄です。
『旅』の取材だからと言って、特別扱いされることも殆ど無く、泊る宿が旅館である事は殆ど無く、昔よくあった商人宿、あるいは民宿が多い。
そして、現地に着いたからと言って、その地を探訪し尽すわけでも無く、大体が旅館に泊るところで終わっていたり、飯を食べるところで終わっていたりと、極めて日常的な風景が切り取られています。
ここに取り上げられている路線は、当時から過疎化に悩んでいる地域で、一日2本とかそんな路線ですから、今訪ねたとしても、殆どが限界集落になっていて廃村になっている地も多いでしょう。
また、今と違って、当時は地元の学校とかに自由に入ることが出来ました。
今だったら、完全に不審者扱いされますが…と言うか、そもそも少子化で学校すら無いのでしょうね。
当時の社会が如何に大らかで、過ごしやすかったかを写しているように思えます。
晩年と異なり、宮脇俊三さんがまだ紀行作家として脂がのっていた作品ですので、当時の風俗もきちんと描かれていて、非常に興味深く、また一気に読める作品でした。
そう言えば、最近の国語教育ではこうした文学作品に触れる事が出来なくなったらしいですね。
こうした叙情豊かな作品に触れられなくなった子供は、どんな大人になるのか、空恐ろしい気がします。
最後はどうでも良い話でしたが、北海道から沖縄に至るまで、23のバス旅を楽しむ作品としては白眉の一つでは無いかと個人的には思います。