菌世界紀行 誰も知らないきのこを追って [読書]
先週買ってきた松茸ですが、日曜はライブで食べられなかったので、月曜日に食す。
松茸御飯で、良い香りがしていたので、匂いが無いとか言いながら香りするやんと言ったら、永谷園の松茸のお吸い物を入れたからや、と返されました(苦笑。
さて、そんなこんなでここ数日読んでいた本。
この前、ブックセンターで買ってきた文庫本のうちの1冊で、『菌世界紀行 誰も知らないきのこを追って』(星野保著/岩波現代文庫刊)です。
天は二物を与えずと言いますが、理系の一流の研究者というのは私の偏見かも知れませんが、文が立つ人が多い気がします。
普通の研究論文のような硬い文章ばかりでは無く、寧ろエッセイが面白い人が多い。
以前読んだ、世界中の鰻を求めて彷徨う研究者の本なんか、抱腹絶倒ものでしたし、その後も何冊も続編が出ています。
これもある意味柳の下の泥鰌。
著者は八戸工大の教授で、菌学が専門の研究者です。
と言っても、納豆菌や酵母菌の様なメジャーなものを研究しているのでは無く、雪腐病菌と言う超マイナーな菌類の研究を行っています。
この雪腐病菌と言うのは、冬の寒い雪の中に生きる菌ですが、当然単独では生活できるものでは無く、雪の下に埋れた植物に寄生して、その栄養分を吸い取る事で生活する菌です。
北海道の様な凍結地域で深い雪が溶けて、地表が露わになったとき、青く繁っている植物の所に斑になって枯れている部分が見受けられるそうですが、それが雪腐病菌の仕業だそうな。
この菌は暑いところでは当然生活できず、日本国内では北海道以外は見られないので、研究するには勢い海外に目を向けざるを得ません。
それも、寒いところで無いと生活できない菌ですから、自ずとフィールドは限られてきます。
最初はノルウェーの北極圏地域を旅して菌を探していたのですが、もっと寒いところとして更に北極に近いノルウェー領スヴァールバル諸島(因みに、この島はノルウェー領ですが、スヴァールバル条約というのがあって、原加盟国には日本も名を連ねています。なので、ノルウェーの入国管理や税関の査察、査証無しでの入国が可能です)に行き、もっと寒いところと言って、デンマーク領のグリーンランドに渡り、ロシアのツンドラ地帯に入り浸ると言う感じで、正に菌ヲタク。
勿論、こんなマイナーな研究に十分な研究費が出る訳も余りなく、しかも行く場所行く場所は観光地とは程遠い場所ですので、勢い珍道中を繰り広げることになります。
この本には雪腐病菌の事も書いてあるのですが、それよりは寧ろこの旅の部分がメインになってしまっていて、そちらの方が失礼ながら面白かったりします。
で、北を制覇したからと言って、次に南を目指していき、最初は交換研究員的に中国の南極観測隊に参加して菌を採取したかと思えば、日本の南極観測48次隊に応募して、厳冬の昭和基地で菌を探すと言う苦行を厭わず…。
当然、こうした研究を極めた人が少ないので、南極のような場所での雪腐病菌は誰も採取する人がおらず、未開の研究領域に入り込むと言うワクワク感も本書から伝わってきます。
かと思えば、新種の菌と思われる菌が南極観測隊の基地の浄化槽で見つかり、それを日本に持って帰るのに擦った揉んだした経緯が面白おかしく書かれていたり(そして、それが文明社会から持ち込まれたものである事が分かったのが皮肉)。
恐らく、研究は真面目に行っているのでしょうが、そうした旅の方に目が行って、破天荒な面白さがあるので、本筋は頭に入らず、傍流の部分だけが目立つ感じになってしまったのか、とも思ったり。
特に、酔っ払いとの絡みが非常に面白かったですね。
ちなみに、この本は第1回齊藤茂太賞の受賞作です。
齊藤茂太と言えば、言わずと知れた紀行文の大家ですから、その名を冠した賞を得たのも頷けます。
面白かったので一気に読んでしまいました。