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ヨーロッパ国際列車追跡乗車記 [読書]

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こうも毎日毎日35度超えが続くと、好い加減バテてきます。
毎日会社に行ってはいるのですが、2日目にしてバテてきました。
折角金曜は休みなのですが、猛暑日に近い気温の予報。
とてもじゃないけど出掛ける気力が起きません。
北の方に行こうと思っても、北の方もかなりの猛暑ですからね。

折角の3連休なのですが、まぁ9月は3連休が後1回あるし、土日潰れるとかもあるので(ぉ。
そんな撮影欲が薄れている今日この頃に、一服の清涼剤となる本の話題。

『ヨーロッパ国際列車追跡乗車記』(南正時著/天夢人刊)。
今は撮り鉄と言えばかなり肩身が狭いですが、プロの鉄道写真家は人々の中に上手く溶け込んで、人間を切り取りつつも鉄道を撮影すると言う工夫が凄く旨いなぁと思います。
この人も鉄道写真家の草分け的存在ですが、元々大塚康生さんと同じ職場にいて、その影響を受けて鉄道にのめり込んだらしい。

この人が異色なのは、通常の鉄道写真家は国内の鉄道を被写体にするのですが、当時は海外旅行が珍しかった時代に海外に出掛けて、欧州を中心とした鉄道を撮影していた事。

この写真を売り込んだ国内の鉄道雑誌からは総スカンを食らうのですが、偶々その写真を評価してくれた人がいて、新聞社系のグラフ誌(多分アサヒグラフだと思う)に海外の鉄道写真を掲載したところ、そこから思わぬ世界が拡がり、ドラえもんと共演したり、武田鉄矢主演の映画になったりと、売れっ子として活躍をしています。

この本は、その切っ掛けとなった欧州の特にTEEを中心にした作品群です。
今でこそ、時速200km以上で各国を結ぶ高速鉄道網が張り巡らされていますが、まだ技術が発展途上だった時期、大出力の気動車または電気機関車をプッシュプル式に連結して、フランスと西ドイツを中心にベネルクス3国、スイス、オーストリア、イタリア、スペインと言った西欧の津々浦々まで走っていた特急網がTEEです。

現在の高速鉄道網は、航空機に対抗する移動手段という趣で、旅情も糞もありませんが(そう言う意味では日本の新幹線も良い勝負)、当時は時間を掛けて移動すると言うのを是としていて、その時間をどれだけ有意義に過ごすかという事に重きを置いていました。
だから、食堂車の連結は当たり前でしたし、バーやブティックすら利用出来る車輌が運行されていましたし、夜行列車だと寝台車も連結されていました。

この本では、自身が撮影した各国のTEEを紹介しつつ、その車内設備や乗務員との対話、乗客との対話が聞こえるような写真を掲載しています。
今ではテロ対策で、乗務員との対話すら覚束無い(これもまた味気ない)のですが、当時は人々に余裕があったのか、様々な国々で、奇妙な東洋人とのコミュニケーションを楽しんでいたりするのが写真で伺えるようです。

当然、自身も多分若気の至りだと思いますが、食堂車では正装と言うドレスコードがあるとか言って、羽織袴でカメラに収まったりしています。
まだ日本人が彼方此方に出没していない時代、中国人との違いを見せるために色々と工夫していたのでは無いでしょうか。

車内風景や車窓だけで無く、勿論、この本は旅鉄ブックスの1冊ですからちゃんとした車輌の写真も掲載されています。
但し、現在と違って銀塩カメラですから撮影は一瞬、そして時間には限りが有るので、無念の涙を呑んで見送ったTEEもあった様です。

それでも、有名どころのTEEはちゃんと抑えていますし、時刻表なども掲載していて、1980年代初頭のまだ欧州旅行が非日常的だった時代の風景をちゃんと伝えているのはさすが写真家だなぁと思いましたね。
また、TEEだけで無く、欧州を走っていた国際列車も一通り抑えていますから、読み本としても面白かったです。

こんなに隆盛を誇ったTEEも、その後TGVやICEなどの高速列車に取って代わられていきますが、その終焉もちゃんと残しているのも良かったです。
大体こうした車輌の写真と言うのは、旬が過ぎれば見過ごされたりするものですから。

個人的には、子供の頃、図鑑とかで見ていた鉄道を写真でも見られたのが嬉しかったですね。

ヨーロッパ国際列車追跡乗車記 (旅鉄BOOKS069)

ヨーロッパ国際列車追跡乗車記 (旅鉄BOOKS069)

  • 作者: 南 正時
  • 出版社/メーカー: 天夢人
  • 発売日: 2023/07/19
  • メディア: 単行本


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北海道鉄道旅行写真帖 [読書]

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今日は二度寝して完全に寝坊。
とは言え、明日は午後から出勤して作業の立会いをする事になるので在宅。
運が良かったです。

ここ数日、寝ると2時間もしないうちに蒸し暑くて目が覚めて、クーラーを付けて寝て、今度は寒くて目が覚めて、クーラーを消して寝てと言う事をしているので、大分身体にダメージが来ている感じです。
だからか、勤務先の人達やその家族にコロナ感染が増えているように思います。

で、明日は出勤なので早めに終わってリハビリに出掛け、帰りにスーパーに寄って米を調達。
この暑さからか、全然人がおらず、私が最後の患者さんだったようです。

さて、先月の肺炎で臥せっていたときに読んでいた本の紹介。
『未来へつなぐ日本の記憶 昭和38年3月 北海道鉄道旅行写真帖』(写真:小川峯生、解説:牧野和人/フォトパブリッシング刊)。
前回は九州だったのですが、今回の舞台は北海道。

北海道と言えば、新入社員で初めて長期休暇が貰えたときに、初めて一人で東京に行き、東京からは寝台特急に乗って北海道へ向い、函館と小樽を観光した後、夜行急行で稚内に行って、雪の中宗谷岬に行って、再び昼行急行で札幌に戻り、特急に乗って根室に行き、納沙布岬で北方領土を眺めて夜行特急に乗って札幌に戻って、帰りは寝台特急に乗って大阪に帰った思い出が有ります。

よく書いてますが、この時、稚内で風邪をひいて熱を出していたのに旅行を強行して、帰ってから気管支炎になったと言う苦い思い出が有りました。

この本でも同じ様に、60年前の3月に弾丸で北海道の各地を撮影旅行した記録で、九州に撮影旅行した翌年に青函連絡船で北海道に上陸しています。
今と違って、北海道も又、津々浦々に鉄路が張り巡らされていた時代です。
国鉄は幹線だけで無く、炭鉱から伸びる支線や建主改従政策で建設された各地のローカル線が未だ生き延びていました。

とは言え、そろそろ自動車の攻勢が強くなり、エネルギー革命によって石炭がメインの動力源から落ちつつある時代。
ローカル線にも経営改革の声が出て、混合列車から客貨分離の実行、また気動車やレールバスの投入が始まりだした頃です。

丁度、時代の変わり目にこの写真たちは撮られました。
これより後だと、国鉄の赤字が酷くなって、何処に行っても所謂国鉄形と呼ばれるキハやディーゼル機関車が導入されて撮影風景が余り変わらなくなりましたし、炭坑鉄道はどんどん廃線となってしまったいたでしょう。

このため、貴重な写真が残されたと言えそうです。
勿論、弾丸旅行ですから、日程は限られていて、炭坑鉄道のめぼしい場所は訪問していましたが、道東を中心に張り巡らされていた簡易軌道の記録はありません。
もしかしたら、簡易軌道は眼中に無かったのかも知れませんが。

60年前の地方の息吹や繁栄していた炭坑町の光景、市街電車の行き交う背の低い町並なども切り取られていて、多分、60年後の現在の光景と比べると隔世の感があるのでしょうね。
今は原野と化して自然に帰っているような場所が、以前は人が溢れんばかりにいた街だったなんてのもありそうです。

編集には些か難がありますが(タイトルを挿入する場所がちょっと判りづらいし、キャプションが全然違ってあれという点がある)、写真を見る分には問題ないと思いますね。

昭和38年3月 北海道鉄道旅行写真帖 (未来へつなぐ日本の記憶)

昭和38年3月 北海道鉄道旅行写真帖 (未来へつなぐ日本の記憶)

  • 出版社/メーカー: フォト・パブリッシング
  • 発売日: 2023/06/26
  • メディア: 大型本



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バルト三国のキッチンから [読書]

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今日は体調崩してお休み。
月1回、こんな状態に陥ります。
どうも肺炎を患ってから体力が落ちた印象です。
声出しも大きな声とか高い声が出なくなっていますし、早く涼しくなってほしいなぁと思いますね。
と言ってたら、明日は37度らしいですが。

さて、ここ最近、通勤の行き帰りに読んでいた本の話。
そう言えば、浦和レッズの嘘がまたバレたようですね。
幾ら暴力が無いと糊塗したって、映像が残っていれば暴力があったことは明白なのに、なんでそこで嘘をつくかなぁと。

スポーツ、特にJリーグと言う理念を理解していないと言われても仕方ありません。
明日は暴動が起きないことを祈るばかりです。
果して、どんな裁定が下るのでしょうかね。
これで激甘な裁定だったら、もうJリーグは完全にオワコンだと思いますけどね。

さて、それはさておき本の話。
『バルト三国のキッチンから』(佐々木敬子著/産業編集センター刊)
バルト三国と言えば、バルト海に面した旧ソ連の国々で、日本では杉原千畝の『命のビザ』で有名ですが、元々は独立国だし、リトアニアのようにロシアをも飲み込んでいた時代もあった訳で、ロシアに不当に占領された国々でした。

それがソ連崩壊とともに独立を果たしたのですが、ウクライナ情勢もあって、ロシアと国境を接しているこれらの国々は情勢が不安定です。
今ではNATOに参画しているので、欧州各国が共同で防衛にあたっている為、ロシアからはおいそれと手が出せない形ではありますが。

そんな緊迫した状態の話では無く、単にこの本ではリトアニア、ラトヴィア、エストニアの各国の旅先で出会った人達のキッチンに入り込んで、料理を頂くと言うものになっています。
勿論、キッチンだけで無く、専門のレストランとか食品会社の調理場を訪れたりもしていて、ちょっとした旅行気分で読める本です。

日本との関係は昔の杉原千畝だけで無く、身近にはサークルKサンクスのホットドッグやパイシートの生地がリトアニアで作られて輸入されたものが多かったりします。
冷凍パンの工場がリトアニアにあって、そこで作られたものが世界中に輸出されているそうな。

こうした食の蘊蓄も混ぜつつ、バルト三国の様々な地域の料理を紹介している本です。
以前、『イタリア料理の誕生』でも書きましたが、1つの国でも地域によって様々な文化があり、料理があるというのを、この本では地で行っています。

勿論、国全体で食べられている料理もありますが、それも各地域によってレシピが微妙に異なります。
一方で、都市部のアパートメントでの調理は仕方ないですが、大抵の家庭は戸建てです。
なので、少なからず庭があり、そこでは必ずハーブや野菜が育てられていて、この本では季節は冬では無く夏に訪れた記録だからか、調理の最中に、「ちょっと外のあれを採ってきて」料理に加えると言う事をよくしているのが印象的でした。

日本だと農家とかにありがちな話ですが、普通の家庭でこんなのが通常に行われているのを見ていると、つくづく生活に余裕があるなぁと思ってしまいます。
まぁ、日本の家と比べるのが間違いですが。

各国の章の最後には、それぞれのお国料理のレシピが掲載されています。
勿論、日本で手に入れられるような材料が無い場合もありますが、そこはインターネットの世界で補足してねと言う感じなのでしょうか。
当然、日本人の味覚に合わない場合もあるでしょうから、その辺はさじ加減なのかなと思います。

バルト三国のキッチンから

バルト三国のキッチンから

  • 作者: 佐々木 敬子
  • 出版社/メーカー: 産業編集センター
  • 発売日: 2023/06/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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九州鉄道旅行写真帖 [読書]

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今朝、出掛ける時には空が保っていたのに、会社に着く直前200mで土砂降りに降られ、慌てて折り畳み傘を拡げていったのですが、会社に着いたら先程の雨は何処へやら。
今日はこんな感じの天気でした。

こんな日こそ在宅で仕事したかったのですが、最近は中々在宅勤務が出来ません。
揺り戻しが来てるらしいし。
でも、座った席の前とか隣とかでマスク無しでゴホゴホしている人が怖くて、マスクを中々手放せません。
流石に先月肺炎で寝込んでいたので、マスクを外すのに勇気が要ります。

今日、ニュースを見ていたら、東海道新幹線での車内販売を中止するという記事が出ていました。
車内販売の売り子さんの確保とか色々理由は挙げられていましたが、車内販売のような非日常的な場面があるから少し高くても新幹線に乗ろうかと思うわけであって、極端な話、サービスが無くなったのであれば、一体、新幹線の特急券と言うのは何のために存在するのかと言う考えに至るのでは無いかなぁと。

場合に依っては飛行機の方が安い昨今、新幹線ももっと運賃を下げられるのではないかなんて思ってしまいます。

てな訳で、今回は肺炎で寝込んでいたときに寝室で読んでいた本の紹介。

『未来へつなぐ日本の記憶 昭和37年3月 九州鉄道旅行写真帖』(写真:小川峯生、解説:牧野和人/フォトパブリッシング刊)。

私が電車に乗って遠出した記憶ってそれこそ殆ど無くて、県内が精々、行っても大阪、和歌山、奈良、京都までで、畿内を出たことは無かったです。
小学生の頃、親が単身赴任していた関係で、東京に初めて行ったのが大旅行の最初。
一人旅では中学の頃に経験した親戚の家があった名古屋くらいかなぁと。

新幹線が通っている時代ですらそんな感じですから、九州や北海道なんて遙か遠くの海外か!くらいの立ち位置です。
昭和37年と言えば、1960年代初頭でまだ東海道新幹線ですら走っていなかった時代。
ただ、今と違って安く旅をする方法はいっぱい有りました。
特に鉄道は、特急こそ庶民にとっては高嶺の花だったのですが、それを補うかのように長距離を走る急行や準急が縦横無尽に走っていました。

学生だと懐は温かくは無いけれど、時間はいっぱい有る。
学割で周遊券を購入すれば、急行や準急の自由席は乗り放題な訳で、学生は見聞のために彼方此方出掛けていました。

撮り鉄にとっても、カメラ片手に各地に撮影旅行に勤しんでいます。
駅前旅館とかに泊ったり、場合に依っては駅寝をしたり、夜行列車で移動したりして宿賃を浮かせたりしたのでは無いでしょうか。

当時は、日本全国津々浦々に鉄道が張り巡らされているので、被写体は無数にありました。
この本は、昭和37年3月の数日間で九州全土を隈無く回った撮り鉄の撮影記録です。
今のデジイチと違って、当時はフィルムですから撮影に一瞬たりとも気が抜けませんし、カラーなんておいそれと現像できるものでは無いですから(当時はハワイまで送らないとカラー写真のまともな現像設備が無かった)、白黒写真が主流。

しかし、蒸気機関車や客車列車が主流だと、モノクロでもそんなに支障が無かったのかなぁとか。
鉄道車輌の写真がメインですが、形式写真的なものばかりでは無く、当時の世相や建築物、風俗なんかも一緒に切り取られていて、まだ発展途上国に毛の生えた存在だった日本と言う国を上手く写している作品になっています。

撮影対象も国鉄線が中心ですが、松浦線、佐世保線、白ノ浦線、世知原線、柚木線、肥薩線、志布志線と言った今は第三セクターになっていたり、廃線になっていたりする路線も収録されていますし、西鉄の福岡市内線、北九州線や、熊延鉄道、南薩鉄道、若松市交通局、大分交通と言う今は亡き私鉄路線も被写体になっています。
当時を知る人は懐かしいでしょうし、知らない人でもこんな場所にこんな鉄道があったと言う知識を得ることが出来るかなと。

まぁ、今の撮り鉄からすれば、同じ被写体ばかりじゃねえかと文句を付けるかも知れませんけどね。

惜しむらくは、編集がイマイチで、路線が少し分かり難い、路線のタイトルに簡単な路線地図とかがあれば良かったのに、とか思ったり、写真とキャプションが完全に入れ違っている箇所があるので、よく読まないと「?」になってしまう部分が出て来てしまっている点でしょうか。

日本が高度経済成長に向かい、効率化の名の下、様々なものを捨て去っていく直前の残照のような時代を上手く切り取った作品では無いかなぁと思いました。

昭和37年3月 九州鉄道旅行写真帖 (未来へつなぐ日本の記憶)

昭和37年3月 九州鉄道旅行写真帖 (未来へつなぐ日本の記憶)

  • 出版社/メーカー: フォト・パブリッシング
  • 発売日: 2023/07/24
  • メディア: 大型本



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懐かしの湘南顔電車 [読書]

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今日は休日作業で、在宅勤務。
朝から数値こねくり回しでした。
とは言え、この気温。
仕事をしているとジリジリと気温が上がり、集中力が落ちて段々と作業効率が落ちていくのが判ります。
流石に14時過ぎからは耐えきれなくなり、梅仕様のクーラーでは余り効率的に冷えず、丁度切りが良かったのでギブアップ。
15時からはグロッキーで寝てました。

そんな訳で、ここ数日、通勤の行き帰りに読んでいた本の紹介。
『懐かしの湘南顔電車 一時代を築いた電車たちの顔』(「旅と鉄道」編集部編/天夢人刊)
1950年代、今までの蒸気機関車牽引の列車の代わりに、電車は短距離しか運行できないという概念を破って東海道線に登場した80系電車を祖とするスタイルをした車輌の一覧です。

元々、80系電車の1次車はスタイルに余り拘りが無く、半流線型の前面に3枚窓というスタイルで登場しました。
ところが、初期車では故障が頻発し、絶縁不良でスパークしたパンタグラフから出火して、乗客多数が閉じ込められて焼死すると言う大事故を起こしてしまいます。

なので、同じスタイルで登場するのはイメージが悪いと、桜木町事故の影響で、63系電車が73系と改称されたと同じく、80系は側面スタイルはそのままに、前面は当時の飛行機や自動車をイメージさせる後退角を付け、2枚窓で腰部に標識灯、頂部にヘッドライトを配置するスタイルにして、イメージを一新。
これに消費者はコロッと騙され(苦笑)、中身は初期車と変わらないのですが、人気の車輌として東海道線に君臨しました。

長編成の長距離電車と言うジャンルを確立した80系は線区に合わせた改造を受けつつ全国に広がって行き、そのスタイルの格好良さが万人受けして、首都圏を始めとする大手鉄道会社はもとより、中小企業や路面電車運航会社などにも波及していった訳です。

本書では、国鉄の湘南系電車から、それが電気機関車やディーゼル機関車、気動車に波及していった過程や、国鉄の影響を受けた西武鉄道、京王電鉄などの大手私鉄、それらの車輌が譲受されて第二の人生を歩んだ中小私鉄各社の車輌の紹介と、未だに現役である銚子電鉄の2000系の紹介などを交えて、湘南顔の系譜を描いています。

勿論、この「湘南顔」と言う定義ははっきりしませんので、それは「旅と鉄道」編集部の独断と偏見に依るのかも知れませんが。(例えば、阪神の最初の赤胴車や青胴車は明確な湘南顔なんですが、期間が短いからか取り上げられていません…京成が取り上げられているのに)
まぁ、大体の車輌は網羅されているのではないかと思います。

願わくば、こうしたデザインの誕生の経緯なんかも掘り下げて取り上げてほしかったなぁと思いましたが、それはハードルが高いかもしれないですね。
(「旅と鉄道」自体の歴史もそんなに長くは無いから…寧ろこの辺は鉄道ピクトリアル辺りが得意とする分野か)

写真も適度に鏤められていて、軽く読む本としては適当なのかなと思います。

懐かしの湘南顔電車 (旅鉄BOOKS063)

懐かしの湘南顔電車 (旅鉄BOOKS063)

  • 出版社/メーカー: 天夢人
  • 発売日: 2023/01/16
  • メディア: 単行本



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幻の麺料理 [読書]

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会社での座席は一応フリーアドレスもどきなのですが、そんな事をすると座れない人が出るので、実際には固定されています。
私の席は窓際にあります…窓際族って言わないで(笑。
しかし、真上に冷風の吹き出し口があって、冷たい風がどんどん吹き付ける訳で。
御陰で寒暖の差が大きな時には、モロに影響を食らいます。

と言う事で、余程のことがない限り休もうかと思ったのですが、残念ながらどうしても外せない会議が2件あり、かと言って家を出たくないので、1ヶ月以上ぶりの在宅勤務でした。

で、17時には終えてリハビリに出掛けます。
土曜日は行く暇が無いので、取り敢ず今日行くことにした訳で。
失敗したのは、来週も仕事で土曜日が潰れるので、リハビリに行けない為、薬を貰って帰れば良かったと。
来週金曜にまた在宅して行ってこようかな。

時に福岡。
さっき見てみたら、土曜日は本降りの雨、日曜は深夜に大雨が降る予想。
でも、午後からは雨が上がるとか…そんな時に限って夕方の飛行機をキャンセルして、昼間に変更した訳で。
これで晴れたら泣くしかありません。

さて、今日は久々に在宅勤務でしたが、急遽決めたので昼ご飯がありません。
で、賞味期限が既に切れていた、先月買った即席パスタを作りました。
フライパンに油を引いて、麺を炒めて少量の水で蒸して、明太子ソースを絡め、皿に盛って海苔を振りかけて食します。

今回は、こうした洋風、或いは中華風の麺料理は日本で何時から始まったのかと言うのを解説した本である『幻の麺料理 再現100品』(魚柄仁之助著/青弓社刊)の紹介。

ラーメンを日本で一番最初に食べたのは、記録上では水戸黄門こと徳川光圀だと言う事になっています。
この本では、そんな歴史上の出来事は扨措いて、広く庶民に洋風や中華風の麺が拡がったのは何時からか、どの様に始まったのかと言うのを、今は日本の国民食と言っても良い、カレーうどん、和風スパゲッティ、マカロニ、ラーメンにソース焼きそばを題材に描いた本となります。

この人の手法は何時もの様に、雑誌の蒐集から始まります。
特に婦人雑誌には料理レシピがくっついてくるので、そうした婦人雑誌に収録された料理レシピに着目して、上記の麺類がいつ頃から登場し、どの様な進化の系譜を辿ったのかを探していきます。

そしてチョイスしたレシピを基に、実際にキッチンで作ってみて、実食してみるというスタンスを取っています。
そう言う意味では、歴史書を紐解くだけでは無くかなり実践的な手法です。

当然のことながら、現代人とそれ以前の世代の人とでは、味覚なんかも違う訳ですが、実際に作って食べてみるという過程を経ることで、料理レシピとして雑誌に掲載されたものの、それが単なる徒花とか埋め草記事的なレシピなのかを自分の舌で実際に判断することが出来る訳です。

これらの料理の中では、カレーうどんに最も紙幅を割いているのですが、パスタやラーメンの様な麺類の原型が日本の場合はうどん(蕎麦では無いのが何故だろうと言うのはあるのですが、原材料としては小麦由来なのですからそれが自然なんだろうなと)で、うどんを洋風、或いは中華風にアレンジしていく過程で、カレーみたいなものと合体させてみた、そのカレーも、通常のカレーライスのカレーでは無く、鰹節を効かせた和風出汁の所謂そば屋、或いはうどん屋のカレーとして昇華されていきます。

また、鹹水を使う以外は原料が同じと言う側面から、うどん屋で中華麺が打たれ始め、ラーメンが供されていくと言うのもなるほどな、と思いました。
ただ、ラーメンの手打ちは専門店でも麺屋に頼るようになり、スープも即席スープ(粉末スープでは無く、「醤」の様な半生のもの)が方々の零細工場で製造されて、麺とスープが一般に販売されて、庶民の味になっていく過程も興味深かったです。

そうしたラーメンを焼きそばに変形させて、所謂屋台の焼きそばであるソース焼きそばに発展したり、洋風麺としてうどんを使っていたパスタが段々とスパゲッティに変化していく過程も面白かった。

ラーメンについては麺とスープにそれぞれ地域性もあるから(札幌の味噌、函館の塩、東京の醤油、博多の豚骨などなど)、これを掘り下げると更に真に迫れる気がします。
そう言う意味ではラーメンだけを取り上げた本も見たいなぁとか思ったり。

青弓社から出ているこの人の著書シリーズは、いずれも実践的な手法で食文化を紐解くと言う形態で独自の視点を築いているし、時たま出て来る毒舌も魅力で、つい買ってしまいます。
勿論、面白いから買ってしまうのですがね。

幻の麺料理: 再現100品

幻の麺料理: 再現100品

  • 作者: 魚柄 仁之助
  • 出版社/メーカー: 青弓社
  • 発売日: 2023/03/27
  • メディア: 単行本



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終着駅からバスの旅 [読書]

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今日は梅雨寒。
そんな日に限って、冷蔵庫まで出張って、仕事の見積です。
何回かお願いしている業者に見積をお願いしたのですが、今まで出て来ていた人が今回は一歩引いて、今回は若手2人が中心になって見積を進めていました。

そう言う意味では、この会社の世代交代は進んでいるなぁと傍目から見ても思いましたね。
翻って当社はどうなんだろう…。

さて、ここ数日通勤で読んでいた本の紹介。
この前にも同じ様なバスの本を読んでいたのですが、今回もバス旅の本。
『終着駅からバスの旅』(加藤佳一著/山と溪谷社販売)

『+BUS』と言うシリーズで発売されているバス旅の本になります。
文字通り、終着駅の先にあるバス路線を旅して、地元グルメに舌鼓を打ったり、観光スポットを巡ったりと言うのを写真と文章で紹介している本になります。
前回紹介した本と異なるのは、ちゃんとバスの時刻が書いてあること。
勿論、バスの時刻は年1回変わるので、掲載時点でのバスの時刻でしかないのですが、田舎のバスともなれば、会社の廃業とかで無い限り、余り変わり映えしませんから、旅をするに当たってそれなりに有力な情報になるのでは無かろうかと。

またグルメや観光スポットについても、ちゃんと値段とかが写真付きで紹介されているので、どんな食べものなのか、或いはどんな特色の有る観光スポットなのかと言うのが良く判ります。

場所は北海道の稚内から九州の志布志まで、沖縄は取り上げられていません。
一応、モノレールも鉄道ではありますが、沖縄はそれだけで1冊の本に出来ますから、敢えて避けたのではないかと思ったりする。

稚内だと宗谷岬、根室だと納沙布岬と言った有名観光スポットから、能勢電鉄の妙見口から行くバス旅とか、神鉄の有馬温泉駅から行くバス旅など、マイナーなスポットまで各種取揃えています。
個人的には阿佐海岸鉄道の甲浦から高知方面に抜ける旅に興味が湧きました。

昔、私鉄の乗り潰しをしていた時分に、阿佐海岸鉄道に乗ったことがあって、「甲浦まで行けたら高知まで近いんじゃね?」と軽く考え、大雨の中、高知方面に向けて歩き出したものの、かなり歩いても目的地に到着出来ず、結局涙を呑んで引返したことがありましたからね。

バスは当時もあったのですが、見つけられなかったか、時間が合わなかったかのどちらかだった記憶があります。

取り上げられているのはローカル線の終着駅からのバス旅が多く、都心の終着駅からのバス旅は余り掲載されていません。
ただ、都内でも味のある終着駅があり、そこから延びる路線バスに乗るのも風情があります。

こちらも白黒ページですが1章を割いて取り上げられていて、近場でバス旅をしようと言う人には穴場路線がそれなりに掲載されていたりします。
ただ、見沼代親水公園からのバス旅は残念ながら、川口の循環バスが意図的にかも知れませんが、無視されていたような気がしたのですが(都内限定だからかしら)。

バスをしたいなぁと言う人にとっては入門書的な書籍だと思いますし、観光目線に立った記述も多いのでお勧めではないでしょうか。

終着駅からバスの旅 (プラスBUS004)

終着駅からバスの旅 (プラスBUS004)

  • 作者: 加藤佳一
  • 出版社/メーカー: 天夢人
  • 発売日: 2023/02/20
  • メディア: 単行本


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全国”オンリーワン”路線バスの旅2 [読書]

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今日は予定通りCPAPの検診に行ってきた為にフレックスで早退け。
平均AHIは18.8とほぼ先月と変わらず、ずっと16~18を往き来しています。
ラージリーク時間が4分43秒と低いのも良い傾向です。
ただ、平均使用時間が短くなってきているのが気になりますが、睡眠が浅いと言うのもあるのでしょうね。

終わってみれば16時過ぎだったので、急いで帰って何とかリハビリに滑り込めました。
リハビリを今日出来れば、土曜日か日曜日に成田詣でか羽田詣でに行けるので。
ただ、処方薬を貰う段になって、何時も2週間分出して貰っている2種類の薬のうち、1種類を在庫整理のため1週間でお願いしたら、薬の名前を間違えて言ってしまいました。
うろ覚えで言わずに、ちゃんと袋から取り出さないと駄目ですね。
幸い、患者さんがほぼゼロだったので薬剤師さんも笑って許してくれましたが…反省。

それから昨日の処方薬と今日のCPAPの医者での処方薬を貰うため、急いで処方薬局に出向き、何とかギリギリで休日夜間加算を免れる事が出来ました。
これを貰っておかないと、何をしに会社を早退けしたのか判りませんからね。

さて、ここ数日通勤時に読んでいた本の紹介。
『全国“オンリーワン”路線バスの旅2』(宮武和多哉著/イカロス出版刊)
以前紹介した本の続刊で、全国津々浦々のバス路線の中で、独特な路線、あるいはニッチ路線などを紹介する本です。

大体、続編と言うものは、余程うまく作らないと二番煎じ的な感じになって、余り面白くないものが多かったりするのですが、これも残念ながら、成功したとは言えません。
最初の本よりはインパクトが少ないかなと言う印象。

昨今のコロナ禍や人口減少社会で、公共交通機関の退潮は避けられず、バス会社の路線そのものが少なくなりつつある上に、鉄道にしても新規路線の建設と言うのが余りメリットが感じられない状態ですから、鉄道敷設予定線をバス路線で巡るという企画も何となく企画倒れかなぁと言う感じです。

それだけ、地方に限らず都市部でも交通手段が狭まっている感じで、暗い話題も多くなっています。
後、写真が印刷の関係か、元の写真の関係か全体に暗めで、余り映りが良くなく、何が写っているのかいまいち不明瞭だったり、項目の最初にこの項目で取り上げる路線が地図で掲載されているのですが、何となくごちゃっとしていて、非常に見難かったです。
後者に関しては、私の老眼の度が進んでいるからと言うのも有るのですが。

無理矢理ネタを搾り出した感じを受けるのですが、何か中途半端で、もうちょっと掲題に沿った形で項目を絞った方が良かったように思います。
それで写真や地図を大きめに見開きで掲載するとかした方が、まだ判りよかったように思う。

それから、コロナ禍もあるので中々難しい中での取材ではありますが、8年前とかの記事を載っけられてもと言うのはあります。
せめて、現状も比較のために掲載してほしかったなあと思います。

総じて残念な本でしたね。
同じ様なバス旅の本を今読んでいるのですが、こちらの方がまだ旅に特化しているし、バスの時刻とかも掲載しているので、旅に出ようと言う感じがします。

全国“オンリーワン

全国“オンリーワン"路線バスの旅2

  • 作者: 宮武和多哉
  • 出版社/メーカー: イカロス出版
  • 発売日: 2022/06/28
  • メディア: 単行本


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国衆 [読書]

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今朝、家を出る時、雨が止んでいたので傘を持たずに出掛けようと思ったのですが、親に「降るで」と言われて渋々大きな傘を持って出掛ける。
暫く全く降っていなかったのですが、歩いて3分してふと見沼代用水を見てみたら、水面にポツポツと。

慌てて傘を差したら、直後に結構な降りになりました。
自転車で通学している学生さんや、保育園に子供を送ろうとしているお母さんが慌てていましたね。
天気予報はこれだから当てになりません(苦笑。

さて、先日読んでいて書評を忘れていた本の紹介。
『国衆 戦国時代のもう一つの主役』(黒田基樹著/平凡社新書刊)。

信長の野望・新生では、国衆を懐柔して、戦いに参加させるという事が出来るようになっています。
ただこの国衆、参加するのは参加するのですが、士気が余り高くなく、少しの攻撃を受けるとあっと言う間に瓦解してしまい、また戦いに参加させるには時間と資金が掛かると言う、余り頼りにならない存在で、家臣団が充実すると重用することはありません。

実際には国衆というのはどんな存在だったのか、と言うのに焦点を当てたのが本書です。
ケーススタディとして、北条家に属していた上野とか下野などの国衆を取り上げています。
北条家は、主家が発給している文書で残っているのが多く、統治機構が比較的再現しやすいと言う点が特徴です。

中央集権的な考え方では、主家の下に家臣団があって、その家臣団が統治する土地に各々の国衆が存在すると言う訳で、家臣団の統治の下に国衆が存在すると言う感じでした。
ところが、実際に発給文書なんかを分析してみると、どんなに小さな国衆であっても、領主からは一定の独立を保ち、家臣団よりも格上で、時には領主と同格であると言う家も存在します。

つまり、戦国大名の家臣の膝下に置かれているわけではなく、かなり自由が利く存在でした。
それ故、その動向については領主や家臣団も気にせざるを得ず、問答無用で成敗すると言う事が出来ない存在だったわけです。

勿論、国衆同士でも大小がありますから、領土争いがあれば国衆同士の諍いとなり、互いに戦を仕掛けると言う事も有ります。
政治力の有る国衆は、領主を味方に付けてその力を借りることもしますし、例えば国境に位置している国衆だと領主を味方に付けられなくとも、隣国の領主を味方に付ける事もします。
国衆同士の諍いから、意図せずに隣国同士の領主の戦闘に発展することもあった訳です。
北条と上杉の戦闘、上杉と武田と北条の三つ巴の戦いなんかでも、こうした国衆の諍いから起きたものもあったりします。

上手く大国を遊泳して、実力を蓄え、周辺の地域を切り随えて、それが一国になれば大名になります。
国衆出身の大名家としては、徳川家もそうですし、真田家、毛利家、長曾我部家、竜造寺家など様々な家があります。
何れも、最初は小さな地域の国衆だったのが、領主の後ろ楯を得て支配領域を拡大し、遂には一国を差配するまでになったものです。

但し、北条家と異なり、これらの家には主家との関係を描く発給文書の数が非常に少ないそうです。
それでも数少ない発給文書を紐解くと、北条家と同様の主家との関係性が見て取れるそうです。
もし、領主と国衆間の発給文書が多数発見されれば、より確実性は高まるとは思いますが、残念ながら西国になればなるほど、こうした文書の発見が少ないそうで、北条家ほどの確実な証拠が挙がってこないらしい。
それは東北方面でも同じだそうです。

因みに、『戦国大名と国衆』と言う本では武田家と国衆の関係を扱っており、また同じ様な本として『戦国時代の大名と国衆』と言う本があります。
読んではいませんが、多分、後者の内容の廉価版が本書じゃないかなぁと思ったりします。

国衆 (平凡社新書1003)

国衆 (平凡社新書1003)

  • 作者: 黒田 基樹
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2022/04/17
  • メディア: Kindle版



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未成線の謎 [読書]

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今日も出社。
取り敢ず、明日は休みなので、手順書2つをとっとと書いて出そうと思ったのですが、1つを書いたところで力尽きました。
日曜日の作業待ちの時につらつらと書こうかなと思ったりする。

それにしても、ユーザ目線とシステム屋目線だと大分違うなぁなんて思ったりして。
手順書を纏めて出せば楽なのと、分割するとどれを使うか判らなくなるIT介護難民向けに出来るだけ手順書を纏めようと作っているのですが、逆に纏めるとIT介護難民は判らなくなるらしい。
さじ加減が難しいなぁと思い知らされました。
ふぅ。

さて、ここ最近通勤の行き帰りに読んでいた本の紹介。
『開封!鉄道秘史 未成線の謎』(森口誠之著/河出書房新社刊)。

鉄道趣味の範囲でも、廃線巡りと言うジャンルがありますが、更にそこから病膏肓に入って、開業していない鉄道について書かれた本です。
その昔、宮脇俊三さんの著書に、『夢の山岳鉄道』と言うのがあったのですが、それと同じ類。
まぁ、謂わば宮脇俊三さんがジャンルを切り拓いたと言っても過言ではないのかも知れません。

古くは私鉄出願が続いた昭和初期にこの類の未成線が大量に出ました。
地図の上に線を引いて、経済上の裏付けがある程度あれば鉄道省に申請を出して免許を受けることが出来ます。
特に政友会の時には「建主改従」と言う政策で、鉄道建設を利権として扱ったため、大量に免許が交付されたりしていました。

山師がこう言った線の免許を取得して、他の鉄道会社に売りつけたり、既存の鉄道会社がライバル他社の進出を防ぐ為に防衛的に免許を取得したり、逆に鉄道会社がライバル鉄道会社の金城湯池に殴り込むために免許を取得したりと形態は様々。

戦前は昭和初期がピークで、免許が濫発されたのですが、大恐慌の御陰で資金が集まらずに着工に至らず、免許の期限が切れるケースが続出しました。
こう言った紙上の鉄道と言う意味での「幻の鉄道」。

また、戦時中に軍の要望で建設が推進されたものの、戦争後半に顕著となった物資不足で肝心の資材が集まらず、竹筋コンクリートの架橋とかを構築したものの、レールは不要不急と言う事で、他の線区に転用され、戦後は輸送密度が足りない為にそれ以上の建設が為されず、「幻の鉄道」となったもの。

戦後になると道路の貧弱さから一時的に鉄道が見直され、また保守政党の権力の源泉として日本列島津々浦々に鉄道の計画が為され、国鉄に建設を押し付ける、国鉄が赤字で二進も三進も行かなくなると、その計画を遂行すべく、鉄道建設公団と言う公団を造り、そこを主体として高規格路線を建設しようとしたものの、オイルショック以降の不況と国鉄の大赤字で輸送の引き受け手が無くなり、国鉄の分割民営化を前に工事を中止し、「幻の鉄道」となったもの。

この本では大別してこのような時代背景で発生した「幻の鉄道」を取り上げています。
史料が残っているのは、ある程度計画されて建設に着手しようというものばかりなので、他の本でも取り上げられていますが、最近は入手困難だし、現在はどんな状態なのかと言う現状についても触れているので、その視点は貴重だなと思ったりする。

戦前なんかの鉄道にありがちですが、地図に線だけ引いて、免許を取得する山師パターンのケースなんかはその後の目論見書もなかったりするので、史料が極端に少なかったりしますからね。

戦前や戦時中の建設途中のものは自然に帰りつつある訳ですが、鉄建公団が手がけたものは頑丈な構築物で、地域のお荷物になってしまっているものも有るようです。
中には上手に利用している地区もあるのですが、寧ろそんなのは少数派です。

確かに都市部なんかでは、この路線が開業していればその地域の交通地図が大きく変わったかもしれないという鉄道もありますが…。
まあそうした路線が開業したら、と妄想するのも面白いかも知れません。
残念ながら、富士登山鉄道は取り上げられていませんでしたけどね。

開封!鉄道秘史 未成線の謎

開封!鉄道秘史 未成線の謎

  • 作者: 森口 誠之
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2022/11/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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