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東南アジア全鉄道制覇の旅(タイ・ミャンマー迷走編) [読書]

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先日からの急な気温変化で体調不良。
喉が痛いしどうやら風邪を引いたようです。
季節の変わり目、皆さんもご自愛ください。

今日は早めに寝ようと思ったのですが、体温計を取り出して、体温を測った後で元あった籠に戻したら、机に置いた籠から飛び出て床に落ちてしまい、何処に行ったか判らない。
ごそごそと起きて、下を弄ったものの何も判らないので、本の山をどけて探す。

ところが全く見つからず、本の山をどけたのが完全に草臥れ儲け。
ふと思って、逆側の本棚の下を弄ると出て来ました。
一度崩した本の山を元に戻すに忍びず、その本の山を整理して、書斎にあった本と交換。
ついでに部屋に掃除機を掛けていたら、瞬く間に1時間半で眠気も何処かに吹っ飛んでしまい、こうしてブログを書いていると言う寸法です。

さて、今日はこの前読んでいた本について。
前回、インドネシアを中心とした乗り潰しの旅をやっていた作者が先ず取り組んだのが、週1回通っているタイと隣国のミャンマーの鉄道乗りつぶしでした。

その旅行記が、『東南アジア 全鉄道制覇の旅(タイ・ミャンマー迷走編)』(下川裕治著/双葉文庫刊)です。
以前、タイの鉄道の話を取り上げましたが、タイの鉄道は、地方に割拠する貴族の叛乱に手を焼いた王室が、軍隊の移動を円滑にするために敷設したものです。

よって、バンコクを中心に国の津々浦々に路線が張り巡らされています。
しかし、この国もご多分に漏れず、バスを始めとする他の交通機関が発達すると、蔑ろにされてしまいます。
広大な路線網を維持する為には多大な資金が必要ですが、慢性赤字であるタイの国鉄には十分な資金がありません。
従って、一度天災が起きて鉄路が寸断されても中々復旧することが無く、また普段動いている路線も、路盤の手入れが充分ではなく、その上、熱帯気候の御陰で植物の繁茂がすごくて、鉄路を走っているのか草原を走っているのか屡々区別がつかない状態です。

LCCや高速バスに客を奪われた結果、列車の運転本数は少なくなり、鉄路を利用するのは無料切符を使う貧乏人のみとなり、荒廃が進んでいます。

ミャンマーの鉄道も同様に、英国が現地住民の叛乱を速やかに鎮圧するための輸送手段として敷設したのが最初ですが、独立後も各地に頻発するゲリラに対抗する為に、軍事政権が彼方此方に路線を敷設します。
しかし、敷設するだけして、その地域が安定したらそれ以上の投資が無い為、列車の状態や路盤の状態は悲惨なことになっています。

著者は最初軽い気持ちで東南アジアの鉄路乗り潰しを宣言したのですが、蟻地獄のように、この地域の鉄道の状況を調べれば調べるほど、泥沼に嵌まっていくのを知ります。

先ず、タイでもミャンマーでも路線の全貌が誰も判らないと言う恐ろしい状態。
苦心惨憺して現地に赴いても、「この路線には列車は走っていません」とか「運休になりました」とか言うのが通常運転です。
走っていたとしても、時刻は全く読めず、乗り継ぎとかが全然成立しません。
この為、折角行っても、最後の1駅を残さざるを得なかったというのが結構あります。
その上、読者から(元々はWebマガジンでの連載でした)、「ここからここまで列車が走っていますよ」と言う情報提供があれば、その都度確認して乗りに行くの繰り返しです。

ひたすら修行僧の如く、果敢に路線に挑み続ける作者に脱帽します。

折角乗りつぶしても、たった何バーツの運賃で運ばれる路線のために、LCCやタクシー、輪タクなどを駆使して、その旅程の費用だけでも何倍、何十倍もお金が掛かる本末転倒さ、更にその路線を5時間かけて乗っても、帰りにバスに乗ったらその数分の1の時間で帰って来られたという、競争力の無さに苦笑を禁じ得ません。

一方で、この旅はタイとミャンマーの社会の縮図です。
先にも書いた様に、競争力が全く無い鉄道は社会から見向きもされません。
鉄道の存在感が全く無いのです。
少しでも金の有る人は、高速バスに流れます。
その鉄道を利用するのは、社会でも底辺にいる人々。
タクシン政権(当時)の貧民政策で、タイ人は無料で乗れる切符がありますから、貧民が移動する手段としては最適です。

ただ、貧民が利用する交通機関なので、車内設備は貧弱です。
夜行列車なのに、電灯すら点いていませんし、客車の座席は木製のベンチ、それも所々壊れたままの代物です。
それでも、人々が逞しく生きている姿をこの本では活写しています。

本来はこちらを読んでからインドネシア〜編を読めば良かったのかも知れませんが、それでも独立した作品として愉しめる作品になっています。



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