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海を渡ったスキヤキ [読書]

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今日も仕事をさせてくれませんでした。
本業以外は随分と進むのですが、本業以外の部分に時間を取られてしまい、なにも出来ずです。
何時までこの状態が続くのやら、先が見通せません。
我ながら我慢強いなぁと思う今日この頃です。

さて、今週読んでいた本。
その前が技術的な本だったので、今回は振り子を戻して思い切り文系の本の紹介。
『海を渡ったスキヤキ アメリカを虜にした和食』(グレン・サリバン著/中央公論新社刊)。

正直、この本は題名の付け方に難ありです。
確かにすき焼きについて、書いてある部分もありますが、どちらかと言えば、副題の方が本題を表しています。
つまり一言で書いてしまえば、米国における和食の歴史。

米国と言えば、我々の世代は「奥さまは魔女」とか「じゃじゃ馬億万長者」と言った1950~60年代のテレビ映画を見て育った世代ですから、凄く広い家で、キッチンとリビングが分かれていて、庭ではバーベキューが出来、毎週のようにホームパーティーを開いていると言うイメージがあったのですが、米国の人々がこうした生活を手に入れるようになったのは、工業化が進んだ19世紀末から20世紀にかけてのこと。

それまで、特に農民達は朝から晩まで働きづめで、家はワンルームの丸太小屋。
当然、キッチンやダイニングなどと言うものは無く、鍋で煮込んだごった煮を、立ったままスプーンで掬って掻き込むと言う極めて原始的な生活だったそうです。
そう言う意味では囲炉裏端で御飯を食べる日本の農民の方が、まだ文化的な生活をしていた訳で。

そんな中、米国はGo West!のかけ声の下、西進を続けていました。
しかし、西部開発の人手が足りなくなって、対岸のアジア人を集めようとします。
最初に来たのは中国人、ところが、彼等が群れ始めると、それを嫌って彼等を排斥し、従順と目されていた日本人を受容れる事になります。

中国人も一種そんなところはありますが、余り食に頓着しません。
そして、日本人のいる仕事場には中国人のコックが配されます。
中国人のコック(と言うのも怪しげな人々)は、安い料理を手早く作ると言う事で、中国南部の中華料理をベースにしたごった煮ばかりを提供します。
偶には故郷の料理を食べたいと考えた移民達でしたが、そもそも「男子厨房に入るべからず」的な考えの人が多く、料理はからきし。
しかし、「窮すれば通ず」の例え通り、あり合わせの食材を使い、醤油などの調味料を準備し、日本料理擬きを作り上げました。

これが米国に於ける「和食」の始まりで、その後、仕事場で腕を磨いた人達が、鉄道建設が一段落した後、様々な現場に散り、また、工場や農園などで定住するにつれて集住した地区で、同胞に御飯を提供する飯屋を始めて行きます。

その中で様々な「和食」が生まれますが、今では中華街で老舗の中華料理店に付き物とされる「フォーチュンクッキー」ももとはと言えば、「和食」のお菓子から派生したものだったそうです。

この本ではこうした歴史を辿り、日本の和食が米国社会の中で変容を遂げ、「和食」となって行ったかを描いています。
タイトルになっているすき焼きについても章を割いていますが、日本の牛鍋が海を渡って米国に受容れられるのは1930年代から1950年代くらいにかけてなので、この本の全体からすればかなり後の方になり、歴史が浅い分、余り深くは突っ込んでいません。
まぁ、深く突っ込んでしまうと、今の倍くらいの厚さになる事請け合いですが。

それにしても、米国の和食の歴史は「窮すれば通ず」の歴史と言っても過言ではありません。
鉄道建設の飯場で作られた和食擬き、ハワイの砂糖黍農園で食べられた弁当、第2次大戦の日系人収容所で誕生したスパムむすびなどなど、何れもギリギリまで追い詰められた人達が生み出した料理でした。

と言う事で、今では日本国内でも通じる様な米国発の和食の歴史について、理解が進む本だなぁ、と思いましたね。
返す返すもタイトルだけが誤解を生む本ではありますが…。

海を渡ったスキヤキ-アメリカを虜にした和食 (単行本)

海を渡ったスキヤキ-アメリカを虜にした和食 (単行本)

  • 作者: グレン・サリバン
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/11/19
  • メディア: 単行本


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