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大陸反攻と台湾 [読書]

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今朝は8時前に起きたのに、そのまま二度寝入りして目が覚めたら10時過ぎ。
慌てて身支度して、リハビリへ出かけました。
朝は未だそんなに雨が降ってなかったのですけどね。

リハビリに出掛けた後、同じ医療ビル内の皮膚科にも寄ってきたわけで。
ここ数日、手がいきなり痒くなり、気が付くと水膨れが出来ていて、それを剥がすと痛いと言うね。
手足口病かも知れないと思って念の為行ってきた訳です。

結果、乾式湿疹だったみたいで、塗り薬を処方されました。
実際、塗り薬を塗ると今迄ガサガサだった肌に潤いが戻ってきました。
とは言え、余りこれに頼るのもどうかと思うのですが。

さて、昨日に続いて今日もここ数ヶ月読んでいた本の紹介。
『大陸反攻と台湾 中華民国による統一の構想と挫折』(五十嵐隆幸著/名古屋大学出版会刊)。

今は中華人民共和国が台湾に侵攻するかどうかと言うので、世の中が喧しいですが、元々台湾にある政府と言うのは1949年まで本土を支配していた中華民国政府です。
現在は中華人民共和国の軍事力が勝っていますから、台湾侵攻とか言う話になっていますが、双方共決め手に欠けます。

中華人民共和国の方は、機動部隊や核ミサイルを有しており、空軍力も圧倒的ですが、如何せん膨大な陸軍部隊を台湾に侵攻させる水陸両用艦隊が少なすぎて、台湾海峡を渡るにはかなりの損害を覚悟しなければなりません。
逆に言えば、中華民国軍はそれを防げば、核を落とされて全土が灰にならない限り、勝利する訳です。
但し、国土はボロボロになると思いますが。

ところが、1950年代や60年代は中華人民共和国の支配が完全に固まっていませんでした。
そうした動きを見て、台湾に逃れた蒋介石は「大陸光復」を唱え、中華民国の国是とし、実際に本土への侵攻を何回か試みようとします。

この本は、こうした中華民国政府の「大陸光復」が立案された後、中華人民共和国と米国との間で翻弄されつつ、何とか「大陸光復」を達成しようとした過程、そして、米中国交回復が為された後、米華国交断絶に至ると、「大陸光復」は意味を為さなくなり、蒋介石死後に蒋経国によって事実上棚上げされていく過程、そして、「大陸光復」政策そのものを葬り去って行く過程を、それぞれ主に中華民国政府の一次資料から紐解き、それに米国公文書館に保管されている米国政府の資料や蒋介石日記、蒋経国の日記、当事者のインタビュー、対峙する中華人民共和国の報道や公開されている論文などを組合わせて解き明かしたものです。

特に反共政策を強く打ち出していたトルーマン政権、アイゼンハワー政権時代、前者は朝鮮戦争の中共軍参戦を破綻させるために、第二戦線を打ち出すべきだと米国政府に強く迫っていましたし、後者の強烈な反共政策に呼応し、中国本土が大躍進政策の失敗で混乱している時に、本土に侵攻して華南を抑えるという作戦を打ち出して支援を求めていました。

これらの反攻作戦については、中華民国海軍としては、特に小艦艇と水陸両用艦艇が圧倒的に足りず、そこを米国の海軍力で補う予定で作戦を組み立てたものの、後についていたソ連が参戦して第三次世界大戦に至ることを恐れた米国によって阻止されています。
また中華人民共和国軍の人海戦術に抗するのが難しく、本土に近い島嶼群は、金門島や馬祖島に近い島嶼を除き、放棄するに至っており、中華民国軍の実力にも疑問符がついていました。

1960年代にはケネディ・ジョンソン政権がヴェトナムに肩入れするのに呼応して、北ヴェトナムを支援する中華人民共和国の支援ルートを切断する為、ビルマ国境にいた中華民国軍残党を増強して、文化大革命に揺れる雲南や貴州に侵攻させチベットの反乱をも支援する作戦を立てていましたが、丁度、中華人民共和国側が核実験に成功したことから、本土を刺激したくない米国側によって阻止されています。

また、沿岸部への小艦艇による海戦も、甚大な被害を出したり全艦撃沈と言う結果に終わったりし始めて、中華民国軍の軍事力や軍の作戦指導力に対する疑念も政府内に湧いてきます。

そこへ降って湧いたのがニクソン政権による米中国交回復で、中華民国政府の大陸光復は完全に息の根を止められます。
ただ、どの国でもそうですが、国是となっていた政策をおいそれとは止められず、どうやって店じまいをするか、蒋介石の後を継いだ蒋経国の手腕に委ねられ、彼は大陸光復政策を目立たない様に修正して、無かったものにして行ったのです。

こうした経過を一次資料を駆使したり、当事者にインタビューをしたりして取り纏めたのが本書です。
今の台湾政府が強かな政策を行っている原点が、この大陸光復政策にあったと思われます。
彼等は、時に迎合し、時に反発して、米国政府と丁々発止の渡り合いをしているわけですから、そりゃ、中華人民共和国側でも一筋縄に行かないと思わせることに成功していると思います。

そう言えば、中ソ対立の時代、大陸光復に米国が頼りにならないと考えた中華民国政府は、選りに選って、米国の敵だったソ連と手を組む事を考え、ソ連とのパイプを作って、交渉をしたりもする強かさを見せています。
ソ連が北方から中国に攻め込むと同時に、中華民国も華南から攻め込もうとしていたらしい。
こうした裏面史もちゃんと拾っているところに、史料を読み込んだ事が現れています。

因みに、作者は少年工科学校から自衛隊一筋で来たたたき上げの自衛官で、偶々防衛大学校に進学する機会があり、台湾問題に興味を持って論文のテーマに大陸光復を選んだそうです。
自衛官というフィルターが掛かっているのかと思いきや、思想的に偏っているわけでも無く、論文としても優秀だと感じました。

大陸反攻と台湾―中華民国による統一の構想と挫折―

大陸反攻と台湾―中華民国による統一の構想と挫折―

  • 作者: 五十嵐 隆幸
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2021/09/10
  • メディア: 単行本


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